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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)207号 判決

東京都港区新橋1丁目16番4号

原告

エスエムシー株式会社

同代表者代表取締役

高田芳行

同訴訟代理人弁理士

千葉剛宏

佐藤辰彦

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

同指定代理人

渡辺弘昭

中村友之

関口博

井上元廣

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が、平成2年審判第3447号事件について、平成3年6月6日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

2  被告

主文と同旨の判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年4月16日、名称を「ケース装着機構」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、特許庁に対し、実用新案登録出願をしたところ、平成1年12月20日、拒絶査定がなされたので、平成2年3月8日、査定不服の審判を請求した。

特許庁は、右請求を平成2年審判第3447号事件として審理の上、平成3年6月6日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、同謄本は、同年7月29日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲記載のとおり)

周溝を画成したボデイと、ケースと、前記周溝に前記ケースと一体的に嵌合するケースガードとからなり、前記ボデイには前記周溝から内方へと突出する複数個の第1の突縁を設けると共に該第1突縁の一部に切欠部を形成し、一方、ケースガードの周縁部には前記ボデイの互いに隣接する第1突縁間に嵌入する第2の突縁を突出形成し且つ該第2突縁に突起部を形成し、前記ケースはその上端部分から下方に指向して若干直径を狭く形成して前記ケースガードの下方側との間で間隙を画成すると共に前記ケースの下端部に突部を形成しこの突部を前記ケースガードの孔部に嵌入して前記ケースとケースガードとを係合させ、且つ係止部材を介してケースとケースガードとを一体化し、さらにボデイとケースとケースガードとを係止するロック機構を設け、前記ボディに対しケースガードを相対的に回動することにより、前記ボディの第1突縁の切欠部にケースガードの第2突縁に設けられた突起部を嵌合させることによりボデイとケースガードとを一体的に組付けるよう構成することを特徴とするケース装着機構(別紙図面1参照)。

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  第1引用例記載の技術内容

特公昭58-34171号公報(以下「第1引用例」という。)には、下記に掲げる技術事項が記載されている。なお、各構成要素を示す用語は、対応する本願考案の各構成要素を示すのに用いられた用語を使用し、各構成要素のあとに、引用例で表現された用語及び引用例の図面符号(但し、同一部分を示す構成要素の2回目以降のもの又は本願考案と引用例の用語が同一のものについては、引用例の図面符号のみ)を括弧書きで示した。

周溝(ニツプル軌道50)を画成したボデイ(ヘツダー22)と、ケース(ボウル容器24)と、前記周溝(50)に前記ケース(24)と一体的に嵌合するケースガード(保護具26)とからなり、前記ボディ(22)には前記周溝(50)から内方へと突出する複数個の第1の突縁(本体リブ51)を設け、一方、ケースガード(26)の周縁部には前記ボディ(22)の互いに隣接する第1突縁(51)間に嵌入する第2の突縁(ニツプル43)を突出形成し、前記ケース(24)の下端部に突部を形成しこの突部を前記ケースガード(26)の孔部(ドレーンバルブ開口41)に嵌入して前記ケース(24)とケースガード(26)とを係合させ、さらにボデイ(22)とケース(24)とケースガード(26)とを係止するロツク機構(ロツクピン44)を設け、前記ボデイ(22)に対しケースガード(26)を相対的に回動することにより、前記ボデイ(22)の第1突縁(51)にケースガード(26)の第2突縁(43)を係合させることによりボディ(22)とケースガード(26)とを一体的に組付けるよう構成したケース装着機構(別紙図面2参照)。

(3)  本願考案と第1引用例の相違点

〈1〉 本願考案は、第1の突縁46の一部に切欠部48を設け、第2の突縁68に突起部70を形成し、前記切欠部48に前記突起部70を嵌合させるものであるのに対し、第1引用例のものは、第1の突縁(本体リブ51)及び第2の突縁(ニツプル43)に格別の切欠部及び突起部を設けることなく、両突縁(51、43)を係合させるものである(以下「相違点1」という。)。

〈2〉 本願考案は、ケース50の上端部分から下方に指向して若干直径を狭く形成してケースガード52の下方側との間で間隙を画成した、のに対し、第1引用例のケース(ボウル容器24)は、ケースガード(保護具26)と実質的に同一の形状であって、ケースガード(26)との間に間隙はない。(以下「相違点2」という。)

〈3〉 本願考案は、係止部材73を介してケース50とケースガード52とを一体化した、のに対し、第1引用例のものは、格別の係止部材を有しない。(以下「相違点3」という。)

(4)  上記相違点に対する判断

そこで、本願考案と第1引用例の上記相違点について検討するに、実願昭53-137963号の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(実開昭55-53523号。以下「第2引用例」という。)には、ボデイ(本体14)に対しケース(1)とケースガード(4)を一体的に嵌合させるケース装着機構であって、ボデイ(14)に対しケース(1)を相対的に回動することにより、上記ボデイ(14)の突縁(係合縁19)と上記ケース(1)の突縁(突状8)を係合させるものにおいて、上記突縁(19)の一部に切欠部(19’)を形成するとともに上記突縁(8)に突起部(突起8’)を形成して、該切欠部(19’)に該突起部(8’)を嵌合させる技術が記載されており(別紙図面3参照)、しかも、本願考案と第1引用例の相違点1における本願考案の作用効果は、第2引用例の前記指摘の技術の有する作用効果と格別相違しないから、上記相違点1における本願考案の点は、第2引用例の前記技術に基づいて当業者がきわめて容易に推考し得たものと認める。

また、本願考案と第1引用例の相違点2における本願考案の点は、例えば、実開昭54-155641号公報に記載されている(別紙図面4参照、以下「周知例1」という。)如く、本願出願前に周知であり、さらにまた、本願考案と第1引用例の相違点3における本願考案の点も、例えば、実開昭55-6046号公報に示される(別紙図面5の第3図参照、以下「周知例2」という。)如く、本願出願前に周知である。

そして、本願考案と第1引用例の技術との相違点2及び3による本願考案の作用効果は、上記各周知技術の有する作用効果の範囲を出ないから、それら相違点2及び3における本願考案のそれぞれの点も、前記周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に推考し得たものと認める。

(5)  むすび

したがって、本願考案は第1引用例及び第2引用例に記載された技術並びに上記2つの周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められ、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

(1)  審決の理由の要点中、(1)(本願考案の要旨)、(2)(第1引用例記載の技術内容)、(3)(本願考案と第1引用例の相違点)、及び、(4)(上記相違点に対する判断)中、本願考案と第2引用例との対応関係は認め、その余は争う。

(2)  取消事由

〈1〉 相違点の看過(取消事由1)

本願考案は、ケース50をボデイ12に対してケースガード52と独立して単に嵌合する構成としたことにより、組立完了後、ケース50に対し加圧流体により最初に内圧が加わったときに、ケース50は、ボデイ12から離反する方向に移動可能な構成であり、下記のとおり格別の作用効果を奏するのに対し、第1引用例に記載された考案は、組立完了後もボデイに対してケースが離反する方向に移動可能とする構成が開示も示唆もされておらず、審決は、その相違点(以下「相違点4」という。)を看過した。

すなわち、まず、本願考案につき「ケース50がボデイ12から離反する方向に移動可能となっている」ことは、本願明細書の次の記載から明らかである。

(ⅰ) 実用新案登録請求の範囲には、ケース50とボデイ12との関係は、「周溝を画成したボデイと、ケースと、前記周溝に前記ケースと一体的に嵌合するケースガードとからなり」と記載されており、ケース50とボデイ12とは、単に嵌合されていることのみを構成要件としている。

(ⅱ) 考案の詳細な説明の項の記載において、このボデデイに嵌合させるケースの部分は、ケース50の上部周縁部に、切り欠きである周溝54を形成し、これにリング56を固着するとともに、リング56とケース50の周溝54との間に凹部を形成し、これにシール用Oリング58を圧入し、Oリング58がケース50よりも直径方向外方に膨出して設けられている構成(甲第6号証7頁3行ないし15行)となっている。

(ⅲ) 考案の詳細な説明の項の記載において、このケースを受け入れるボデイは、下方に広径な第1の周溝22とこれに連通する狭径な第2の周溝24が画成され(甲第6号証5頁12行ないし15行)、両者の取付けは、ケース50の前記リング56(正確にはOリング58とともに)をボデイ12の第2周溝24の上壁部を指向するように嵌合しただけのものである(甲第6号証11頁6行ないし10行)。

(ⅳ) 考案の詳細な説明の項において、使用時にケース50に内圧が加えられたときには、「内圧はケース50内部に及び、従って、ケース50をケースガード52と共に下方に引き下げるような力を発揮する。従って、この内圧の存在によっては、操作者は容易にロック機構94をアンロックしてケースガード52を上方へと持ち上げることは不可能である」(甲第6号証13頁20行ないし14頁5行)と記載されている。

以上のような記載から明らかなように、ケース50はボデイ12に単に嵌合されているだけの構成であり、内圧によりケース50がその外側にあるケースガード52を押し下げるように、ケース50がボデイ12から離反する方向に移動可能になっていることが理解できることは明白である。

被告は、本願考案が最初の内圧によって、「ボデイ12に対してケース50が離反する方向に移動可能とする」構成であるためには、突部64に係合するリング部材73とケースガード52の底部外面との間隙の大きさ、Oリング58とボデイ12との係合力とケースガード52の内周面とケース50の外側面との係合力との関係、ケースガード52の材質及び厚さなどについて一定の要件を満たさなければならないが、かかる要件については、本願明細書には一切記載されていないと主張するが、前記(ⅳ)の記載から、ケース50はケースガード52内でボデイ12から内圧で移動しケースガード52に押しつけられることは明らかであり、リング部材73とケースガード52との関係については、ケース50の底部外面とリング部材73との間には当然に取付誤差等によって間隙が存するものであり、Oリング58とボデイ12との係合もボデイ12からケース50を着脱するためのものであるから、この種の加圧流体の内圧でケース50がボデイ12から離反する程度の係合であることは当然のことである。また、ケースガード52の材質及び厚さの点については、本願考案において、間隙60がある以上、ケース50が加圧流体の内圧により径方向に若干膨張する可能性があることは被告も認めており、このような膨張があれば、ボデイ12に単に嵌合しているケース50の上縁は必要な距離だけ移動することとなるものである。このとき、ケースガード52が伸びることがなくても同じことである。以上のことは、本願明細書の記載及び各引用例との対比から当業者であるならば当然に理解できることである。

したがって、本願考案は、

ケース50に加圧流体により最初に内圧が加わったときに、この内圧によりケース50をボデイ12から離反する方向に移動可能とすることにより、内圧によりケース50の底部をケースガード52の底部内面に圧接させ、その力を利用してボデイ12の第1の突縁46とケースガード52の第2の突縁68とボデイ12とを係合させ、かつ、第1の突縁46に設けた切欠部48に第2の突縁68に設けた突起部70を挿入してボデイ12とケース50とケースガード52とを堅牢に一体化するようにするとともにケース50内の内圧をボデイ12の第1の突縁46とケースガード52の第2の突縁68とで受け止め、破損し易いケース50の上端部で受けることを回避するようにし、

同時に、ケース50の底部が前記の移動によりケースガード52の底部内面に圧接したときに、その内圧及びその後の内圧の変動に起因してケース50の膨張・収縮を許 して破損の原因となる歪みがケース50に生じないように、ケース50をその上端部分から下方に指向して若干直径を狭く形成してケースガード52の下方側との間で間隙を画成し、

さらに、ケース50とケースガード52とは一体化されていないため、取扱い中に、不用意にケース50がケースガード52から脱落して破損しないように、ケース50の下端部に突部64を形成し、この突部64をケースガード52の孔部72に嵌入してケース50とケースガード52とを係合させ、かつ係止部材73により一体化したものである。

これに対して、第1引用例に記載された考案は、前記のとおり、組立完了後も、ボデイに対してケースが離反する方向に移動可能とする構成が開示も示唆もされていない。すなわち、第1引用例ではヘッダー22(ボデイ12)に保護具26(ケースガード52)が係合された状態でボウル容器24(ケース50)は保護具26(ケースガード52)により一体に抱持されて、内圧によっても不動とされている。このため、保護具26(ケースガード52)に形成されているボウル容器24(ケース50)を観察するための開口42の外周にボウル容器24(ケース50)が圧接して剪断応力が生じ破損し易い。

したがって、本願考案が組立完了後も、ボデイ12に対してケース50が離反する方向に移動可能とする構成を有し、かかる構成を採択することにより、上記のとおり、格別の効果を奏すのに対して、第1引用例に記載された考案は、かかる構成を有しておらず、本願考案の奏する上記の様な効果もない点で相違する。

しかるに、審決はかかる相違点を看過した。

〈2〉 相違点1に対する判断の誤り(取消事由2)

相違点1における本願考案の構成は、相違点4における本願考案の構成を前提とするものであるから、相違点4における本願考案の構成による作用効果を目的としていなければ、相違点1における本願考案の構成を採択することにならないものというべきである。

しかるところ、相違点4における本願考案の構成及びその作用効果は、第2引用例に開示されていないし、周知でもない。すなわち、

第2引用例では、組立完了後までは本体14に対して離反する方向に移動可能であるが、組立完了後は、本体14に対してケース1及びケースガード4が一体に係合してケース1は本体14に対して不動とされている。このため、第2引用例の構成によるときには、ケース1の突条3に内圧が集中し、該突条3が破損し易い。

また、実開昭54-155641号公報(甲第4号証)ではケース1が本体に対して離反する方向に移動可能とする構成が開示ざれておらず、実開昭55-6046号公報(甲第5号証)では、明らかにボール15が本体12に対して取付具13により不動に一体固定されている。

したがって、相違点1における本願考案の構成について、第1引用例に、第2引用例、周知の技術を組み合わせても、相違点4における本願考案の構成を前提とするような構成とは成りえないものである。

そして、相違点1における本願考案の構成の作用効果は、相違点4における本願考案の構成の作用効果を生ぜしめるものであるから、第2引用例の作用効果とは、顕著な差異があるものというべきである。

よって、相違点1における本願考案の構成は、第2引用例に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に推考し得たものとした審決の判断は誤りである。

〈3〉 相違点2及び3に対する判断の誤り(取消事由3)

ケース50はガラス又は合成樹脂製透明体からなるものであり(明細書6頁19行ないし7頁1行、甲第12号証21頁左欄31行ないし34行、右欄26行ないし30行の各記載から、ケースガード52を備えるケース50自体、破損のおそれのあるガラス又は合成樹脂製のものであることは明らかである。)、このようなガラス又は合成樹脂製のケースがケース内の加圧流体の圧力により膨張変形することは、本願考案の出願前から当業者にとって周知のことである(同号証21頁右欄34行ないし43行)から、本願考案において、ケース50はケースガード52の中で加圧流体の圧力により径方向に膨張変形することは明らかである。

そして、本願考案において、ケース50がボデイ12から離反する方向に移動可能な構成を有しており、ケース50はケースガード52の中で加圧流体の圧力により径方向に膨張可能であること及び相違点2における本願考案の構成を有していることから、ケース50がケースガード52を介してボデイ12に装着されて使用されるとき、ケース50に加圧流体が最初に流入するときに生じる内圧により、ケース50はケースガード52の内面底部に当接するまで下降し、この際の内圧の急上昇による衝撃を緩和し、その後の加圧流体の流入によって生じる内圧の変動によりケース50内の圧力が増大したときには、ケースガード52内面とケース50との間隙60が形成されていることと、ケース50がボデイ12に摩擦係合しているのみで、固着されていないため、ケース50の上端部がなにものにも拘束されいないことに基づき、ケース50が下方に移動でき、スムーズに膨張することができてケース50の側面をケースガード52に圧接することを回避し、ケース50への応力集中を回避することができ、ケース50の使用時の破損を防止し、その使用寿命を長くすることができるという効果を奏することができる。

そして、実開昭54-155641号公報(甲第4号証)に記載されているものは、ケース1とケースガード2の下方側との間に間隙を有しているが、ケース1の上端がどのように他の部材と係合しているか開示されていない。したがって、同公報に記載されたものが、本願考案のようにボデイ12とケースガード52とが離反する方向に移動可能にしたものではない以上、本願考案とは前提の構成を異にするものであり、相違点2における本願考案の構成を開示又は示唆するものといい得ないものであることは明らかである。

さらに、実開昭55-6046号公報(甲第5号証)の第3図は、合成樹脂製又は熱収縮フィルムの膜22をボール15の外周面に接着又は収縮させて一体化しているものを開示するもので、本願考案のように分離自在のものを係止して分離不能とする手段(係止部材73)を設けるとの技術的思想があるはずはなく、相違点3における本願考案の構成及びその作用効果を開示又は示唆するものといい得ないものであることは明らかである。

なお、被告は係止部材を介してケースとケースガードを一体化することの周知例として、乙第2ないし第11号証を提出するが、これらをもってしても、係止部材を介してケースとケースガードを一体化することが周知であるとはいえない。すなわち、

乙第2、第3号証については、いずれも本願考案とは技術分野を異にし、また、その構成を異にする。

乙第4号証については、ガードがケースの表面にはめ込まれているもので、バルブは、ガードとケースとを一体化するものではない。

乙第5号証については、下ケーシングと上ケーシングのステンレスケーシングのフランジをつき合わせ、樹脂ケーシングのフランジとともに液密に巻き締めて耐薬品性フィルタを形成する(8頁左上欄15行ないし右上欄1行)ものであるから、本願考案のように、ケースとケースガードとがボデイに分離自在に嵌合されているものを一体化するために係止部材を設けたものとは異なる。

乙第6及び第10号証(全文明細書及び図面は甲第13及び第14号証)については、貯槽を保護筒に嵌合し、両者を開閉弁本体により一体に係止した構成を採用しているが、貯槽と保護筒の上端は、結合環に一体に固定されている。そして、貯槽と保護筒の上端の段部に、結合環の下端に係合し、その上縁は抜け止め用のスナップリングにより係止されて一体に構成され、互いに分離不能とされているものであるから、本願考案のように、ケースとケースガードとがボデイに分離自在に嵌合されているものを一体化するために係止部材を設けたものとは異なる。

乙第7ないし第9号証については、本願考案とは技術分野を異にし、また、その構成を異にする。

乙第11号証については、ケースとケースガードとがドレン弁により一体に係止された構成を開示しているが、本体にケース及びケースガードがクランプリングにより一体に固定されて分離不能に構成されているものであるから、本願考案のように、ケースとケースガードとがボデイに分離自在に嵌合されているものを一体化するために係止部材を設けたものとは異なる。

したがって、相違点2及び3においても、この相違点における本願考案の構成を開示又は示唆するものがない以上、第1引用例の相違点2及び3における構成に替えて、本願考案の相違点2及び3における構成とすることは当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえないものである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求原因1ないし3は認め、同4は争う。

2  被告の反論

(1)  取消事由1、2について

本願考案が、最初の内圧によって、「ボデイ12に対してケース50が離反する方向に移動可能とする」構成であるためには、突部64に係合するリング部材73とケースガード52の底部外面との間隙の大きさ、Oリング58とボデイ12との係合力とケースガード52の内周面とケース50の外側面との係合力との関係、ケースガード52の材質及び厚さなどについて一定の要件を満たさなければならないが、かかる要件については、本願明細書には一切記載されていない。したがって、上記構成は、本願明細書に記載されておらず、また、そのような構成を示唆する考案の目的、効果も記載されていない。

よって、原告の取消事由1の主張及び相違点4における本願考案の構成の存在を前提とする取消事由2の主張は失当である。

(2)  取消事由3について

〈1〉 相違点2について

原告は、本願考案の間隙60の画成による作用効果を主張するが、かかる作用効果は、本願明細書には記載されていない。したがって、間隙60の大きさや形状が「内圧の上昇時における衝撃の回避」を実質的に可能とするのに必要な要件を備えているものとしては必ずしも理解されない。

本願考案において、ケース50がケースガード52の下方側との間で間隙60を画成しているので、加圧流体の内圧により、ケース50は径方向に若干膨張する可能性があるとしても、ボデイ12に対してケース50が離反する方向に移動することはない。

本願考案において、ケース50の上方部分はケースガード52に嵌合はしているが、上下方向には完全には固定されてはおらず、ボデイ12に対してOリング58で、また、ケースガード52上半部分に対して間隙60より上方の部分で摩擦係合しているのみであるから、内圧の上昇時に、ケースの上端が固定されている場合よりも、ケース50の径方向の膨張によってその上端が下降することはあり得る。しかしながら、ケース50の下端がケースガード52底面で拘束されているから、加圧流体の最初の流入時に、ケース50全体が降下することはないので、ケース容量の増加はもっぱら径方向の膨張のみである。すなわち、ケース50とケースガード52を係止部材73で係止したものは、ケース50の下端がケースガード52の底面に密着していて両底面は離間しない(本願明細書には、離間した構成も離間できる構成も記載されておらず、本願明細書9項2行ないし3行には「両者を固定する。」と記載されている。)のであるから、ケース50とケースガード52をボデイ12にセットした状態においてもケース50の下端はケースガード52の底面に拘束されていて、加圧流体の最初の流入時に、本願考案のケース50全体が降下することはない。

これに対して、周知例1(甲第4号証)には、ケース1の上端がどのように他の部材に係合しているかは記載されていないが、第2引用例に記載された如く、ケース1の上端が、本体及びケースガード2に対して固定された構成と仮定する。

ケース1の底部はケースガード2底部に対して弁棒3、ばね受4、ばね部材5を介して間隙を持って組付けられているから、内圧の上昇時、ケース1はケースガード2内面に圧接するまで径方向に膨張するとともにその膨張に必要な(ケース1に沿った)上下方向の長さの増加を補うに十分なケース1の上下方向の伸びが、上記内圧の上昇そのものによりもたらされ、ケース1底部は実質的には上昇しない。

したがって、周知例1においては、ケース1の上端の固定はケース1の膨張に何ら障害とならない。

なお、ケース1が本願考案のケース50より疲労し易いという原告の主張は誤りである。

周知例1が、第1引用例に記載された如く係合しているものと仮定した場合には、構造自体も本願考案と異ならず、当然に作用効果も等しくなる。

したがって、本願考案の間隙60による作用効果は、周知例1の間隙による作用効果と比較して格別のものではない。

〈2〉 相違点3について

甲第11号証(周知例2の明細書及び図面のマイクロフィルム)に記載された、3つの種類の膜のうち、合成樹脂製の膜を接着剤で接着したもの及びフィルムを熱収縮させたものは、本願考案のケース50とケースガード52とを係合させた状態のものと格別相違しない。すなわち、前者の場合には、落下等の衝撃による接着部分の剥離により、膜22とボール15との間に隙間ができたり、がたつきが生じる可能性があり、後者の場合にも、落下等の衝撃により熱収縮フィルムとボールとの間にずれやがたつきが生じる可能性があるので、ドレンコック16は、膜とボールとの少なくともエアフィルター底部における剥離又は分離を防ぐ作用をしている。

したがって、周知例2のドレンコック16は、本願考案の係止部材と類似の、膜22とボール15を結合して分離を防ぐ係止部材としての作用を有している。したがって、この係止部材を第1引用例のケースとケースガード間に適用すれば、それら両者を一体化させる作用をなすであろうことは、当業者にとって自明である。

なお、係止部材を介してケースとケースガードを一体化することの周知性については、乙第2ないし第11号証によっても明らかである。

第4  証拠関係

証拠関係は記録中の証拠目録の記載を引用する(書証の成立についてはすべて当事者間に争いがない。)。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願考案の要旨)及び3(審決の理由)は、当事者間に争いがない。

2  本願考案の概要

甲第6ないし第9号証(以下、総称して、「本願明細書」という。)によれば、本願考案は、空気圧機器を構成するフィルタ、ルブリケータのようにケースをケースガードによって囲続、保護しようとする機構において、当該ケースガードをケースとともに本体に対して容易に装着することが可能であり、かつケースに内圧が存在する時、本体からケース、あるいはケースガードを簡易に離脱させることのないように構成したケース装着機構に関すること、原告が既に出願し、出願公告を得た、考案「フィルタおよびルブリケータ用ケーシングの装着機構」、「ケース装着機構」の構造を一層簡易化し、かつ内圧が存在する場合に簡易にボデイ本体からケース、あるいはケースガードを脱挿することのないように構成したケース装着機構を提供することを目的として(甲第6号証1頁17行ないし2頁8行、3頁19行ないし4頁11行)、周溝を画成したボデイと、ケースと、前記周溝に前記ケースと一体的に嵌合するケースガードとからなり、前記ボデイには前記周溝から内方へと突出する複数個の第1の突縁を設けると共に該第1突縁の一部に切欠部を形成し、一方、ケースガードの周縁部には前記ボデイの互いに隣接する第1突縁間に嵌入する第2の突縁を突出形成し且つ該第2突縁に突起部を形成し、前記ケースはその上端部分から下方に指向して若干直径を狭く形成して前記ケースガードの下方側との間で間隙を画成すると共に前記ケースの下端部に突部を形成し、この突部を前記ケースガードの孔部に嵌入して前記ケースとケースガードとを係合させ、且つ係止部材を介してケースとケースガードとを一体化し、さらにボデイとケースとケースガードとを係止するロック機構を設け、前記ボディに対しケースガードを相対的に回動ずることにより、前記ボディの第1突縁の切欠部にケースガードの第2突縁に設けられた突起部を嵌合させることによりボデイとケースガードとを一体的に組付けるよう構成することを特徴とする(甲第9号証別紙2項)ことが認められる。

3  取消事由について検討する。

(1)  取消事由1(相違点4の看過)について

原告は、まず、本願考案は、組立完了後ケース50に対し加圧流体により最初に内圧が加わったときに、この内圧によりケース50をボデイ12から離反する方向に移動可能な構成を有していると主張し、上記主張の根拠として、ケース50をボデイ12に対してケースガード52と独立して単に嵌合する構成を採用した点を主張する。

本願明細書の実用新案登録請求の範囲には、ボデイとケースとの関係については、「(ボデイ)の周溝に前記ケースと一体的に嵌合するケースガード」との記載が認められるのみであるが、かかる記載から直ちに、ボデイ、ケース、ケースガードの三部材の組立完了後、ケース50に加圧流体により最初に内圧が加わったときに、ボデイに対してケースが離反する方向に移動可能とする構成について記載されていると認めることはできず、同実用新案登録請求の範囲中のボデイとケースガードとの関係及びケースとケースガードとの関係に関する記載全体からも、直ちに組立完了後も、ボディに対してケースが離反する方向に移動可能とする構成であると認めることはできない。

次いで、本願明細書の考案の詳細な説明の項には次の〈1〉ないし〈4〉の記載があることが認められるが、原告は、本願明細書の実用新案登録請求の範囲の上記記載に加えて、下記〈1〉ないし〈4〉の記載から、本願考案が、組立完了後も、ボデイに対してケースが離反する方向に移動可能とする構成であることが明らかであると主張する。

〈1〉  「ケース50の上部周縁部はこれを切り欠き、周溝54を形成し、前記周溝54に合成樹脂製のリング56を装着する。リング56は、この場合、前記ケース50に対して、簡易に周溝に嵌合するだけで固着することが可能である。図から容易に諒解されるように、リング56とケース50の周溝54との間では周回する凹部が画成され、本考案では、この凹部にシール用Oリング58が嵌装される。従って、シール用Oリング58はリング56とケース50の端縁との間で強制的に前記凹部に圧入され、しかも、このシール用Oリング58は前記ケース50よりも直径方向外方へと膨出することが容易に諒解されよう。」(甲第6号証7頁3行ないし15行)

〈2〉  「前記ボデイの下方には広径な第1の周溝22とこの第1周溝22に連通してそれよりも狭径な第2の周溝24とが画成される。」(甲第6号証5頁12行ないし15行)

〈3〉  「リング56を第2周溝24の中に導入すると共に突縁68を第1周溝22の溝47内に嵌合する。この場合、リング56が第2周溝24の上壁部を指向するようにこのケースガード52をケース50と一体的に嵌入する。」(甲第6号証11頁6行ないし10行)

〈4〉  「この内圧はケース50内部に及び、従って、ケース50をケースガード52と共に下方に引き下げるような力を発揮する。従って、この内圧の存在によっては、操作者は容易にロック機構94をアンロックしてケースガード52を上方へと持ち上げることは不可能である。」(甲第6号証13頁20行ないし14頁5行)。

しかしながら、〈1〉ないし〈3〉の各記載は、ボデイに対してケース及びケースガードが一体的に嵌合される点を説明するに止まり、両者の取付け後、最初の圧力がケースに加わるときにケースがボデイ中で移動するか否かについては明らかではない。また、原告は、〈4〉の記載から、ケース50はケースガード52内でボデイ12から内圧で移動しケースガード52に押しつけられることは明らかであると主張するが、〈4〉の記載は、内圧がケースに作用するときに、ケースとケースガードにも下向きの力が作用するという点を説明するのみであり、組立完了後にケースがボデイから離反することを明らかにするものではないから、原告の上記主張は失当である。

ところで、最初の加圧空気がケースヘ導入される際の、ケース、ケースガード及びボデイとの関係について、本願明細書の考案の詳細な説明の項には、「前記ケースガード52をケース50と共に一体的に円周方向へと周回させ、次いで、突縁68を突縁46に係合させる。この結果、切欠部48に対して突部70が嵌合し、これによってボデイ12とケース部14とが相互の変位を阻止されて両者は一体化するに至る。このような組立構成において、入ロポート16から所定圧の空気が導入されると、この空気は通路26、第2周溝24を介して第1周溝22に至る」(甲第6号証11頁13行ないし12頁1行)との記載がある。上記記載において、「このような組立構成」とは、この記載の趣旨からみて、切欠部48に対して突部70が嵌合し、これによってボデイ12とケース部14とが相互の変位を阻止されて両者が一体化した構成をいうと解されるから、最初の加圧空気は、ケース、ケースガード及びボデイの三部材が組立構成され、ボデイ12とケース部14(ケース及びケースガード)とが相互の変位を阻止されて両者が一体化した状態において導入されると解される。

次に、ケースとケースガードとの関係について検討する。

本願明細書の実用新案登録請求の範囲中、ケースとケースガードとの関係を規定しているのは、「前記ケースの下端部に突部を形成しこの突部を前記ケースガードの孔部に嵌入して前記ケースとケースガードとを係合させ、且つ係止部材を介してケースとケースガードとを一体化し」との記載であると認められるが、同記載において、ケースとケースガードとが係止部材を介して一体化された後において、ケースのケースガードに対する相対移動を許容するものであるかは明らかではない。そこで、本願明細書の考案の詳細な説明の項を参酌すると、同項には、ケース50とケースガード52との一体化に関して、次の記載があることが認められるが、上記一体化の意味を説明する記載はなく、上記一体化した後に両者の相対移動を許容し得るとの直接の記載もない。

〈1〉  「ケースガード52の下部は湾曲して半径方向中心に指向して終端し、その中央部分には前記周回する突部64を受容するための孔部72が画成される。この場合、突部64を孔部72に嵌合してケース50とケースガード52とを一体化する際、突部64の外周縁部に形成された周溝に前記孔部よりも広径のリング部材73が嵌合して両者を固定する。」(甲第6号証8頁16行ないし9頁3行)

〈2〉  「ボデイ12に対してケース部14を装着するに際しては、予め、ケース50の周回する突部64をケースガード52の孔部72に嵌合する。次いで、前記突部64に刻設された周溝65にリング部材73を嵌合してケース50とケースガード52との一体化を図る。このようにしてケースガード52に対してケース50を固定した状態でドレンコック74をケース50の孔部62内にスナップリング105を介して装着する。」(甲第6号証10頁17行ないし11頁5行)

上記いずれの記載においても、ケースとケースガードは固定して一体化すると説明されているところ、固定とは動かぬようにすることであるから、固定して一体化するとは、動かぬようにして一体化するとの意味であると解される。したがって、これらの記載によれば、ケースの下端部はケースガードに動かぬように固定されるものというべきであるから、本願考案は、ケースガードとケースとが一体化された後において、ケースのケースガードに対する相対移動を許容し得る構成であると認めることはできない。

さらに、上記〈2〉の記載によれば、ケースガードとケースとが一体化された後にボデイに装着されるのであるから、ケース部(ケースとケースガード)がボデイに装着された状態においては、ケースがケースガードに対し相対移動できる余地はないと解される。

したがって、本願考案において、三部材の組立完了後もボデイに対してケースが離反する方向に移動可能とする構成を有するとの原告の主張は理由がない。

なお、原告は、(a)リング部材73とケースガード52との関係については、ケース50の底部外面とリング部材73との間には当然に取付誤差等によって間隙が存するものであり、(b)Oリング58とボデイ12との係合もボデイ12からケース50を着脱するためのものであるから、この種の加圧流体の内圧でケース50がボデイ12から離反する程度の係合であることは当然のことであり、(c)また、ケースガード52の材質及び厚さの点については、本願考案において、間隙60がある以上、ケース50が加圧流体の内圧により径方向に若干膨張する可能性があることは被告も認めており、このような膨張があれば、ボデイ12に単に嵌合しているケース50の上縁は必要な距離だけ移動することとなるものであると主張する。

まず、(a)の主張については、取付誤差等によって間隙が生じることが本願考案に係るケース装着機構の製造上避けられないとしても、本願明細書には、取付誤差等による間隙を利用して、ボデイに対してケースが離反する方向に移動可能な構成とする点については何ら記載がなく、かかる記載がない以上、本願明細書において、取付誤差等による間隙を利用するという技術思想は開示されていないと認められる。したがって、当然に取付誤差等によって間隙が生じるからといって、本願明細書において、ケースが離反する方向に移動可能な構成とする点が開示されているということはできず、当業者にとっても自明であるとはいえないものである。

次に、(b)の主張については、前記のとおり、ケース部(ケースとケースガード)がボデイに装着された状態においては、ケースがケースガードに対し相対移動できる余地はないのであるから、Oリングとボデイとの係合がケースがボデイから離反する程度のものであったとしても、ボデイとケース部(ケース及びケースガード)とが相互の変位を阻止されて両者が一体化した状態においては、ケースがボデイに対してケースが離反する方向に移動可能であるとはいえないことは明らかである。

また、(c)の主張についても、ケース50が加圧流体の内圧により径方向に若干膨張する可能性があるからといって、当然ボデイに対してケースが離反する方向に移動可能であるとはいえないことは明らかである。

したがって、原告の上記主張は失当である。

(2)  取消事由2(相違点1に対する判断の誤り)について甲第3号証(実願昭53-137963号の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム((実開昭55-53523号))、第2引用例)によれば、ボデイ(本体14)に対しケース(1)とケースガード(4)を一体的に嵌合させるケース装着機構であって、ボデイ(14)に対しケース(1)を相対的に回動することにより、上記ボデイ(14)の突縁(係合縁19)と上記ケース(1)の突縁(突状8)を係合させるものにおいて、上記突縁(19)の一部に切欠部(19')を形成するとともに上記突縁(8)に突起部(突起8')を形成して、該切欠部(19')に該突起部(8')を嵌合させる技術が記載されていると認められる(なお、用語の対応関係については当事者間に争いがない。)。そして、本願考案と第1引用例の相違点1における作用効果は、第2引用例の上記記載技術の有する作用効果と格別相違しないと認められる。したがって、相違点1における本願考案の点は、第2引用例の前記技術に基づいて当業者がきわめて容易に推考し得たものとの審決の判断に誤りはない。

原告は、相違点4における本願考案の構成及び同構成による作用効果は第2引用例に開示されていないと主張するが、前記(1)で判示したとおり、本願考案は、ケース50に加圧流体により最初に内圧が加わったときに、この内圧によりケース50をボデイ12から離反する方向に移動可能な構成を有するものとは認められないのであるから、同構成による作用効果を奏することもあり得ないものである。

したがって、相違点1における本願考案の構成は、相違点4における本願考案の構成を前提とするものであるから、相違点4における本願考案の構成による作用効果を目的としていなければ、相違点1における本願考案の構成を採択することにならないものというべきであるとの原告の主張は理由がない。

(3)  取消事由3(相違点2及び3に対する判断の誤り)について

原告は、本願考案と第1引用例記載の考案の相違点2における本願考案の点、本願考案と第1引用例記載の考案の相違点3における本願考案の点のいずれもが、本願出願前に周知であるとの審決の判断を争うので検討する。

〈1〉  本願考案と第1引用例記載の考案の相違点2における本願考案の点について

甲第4号証(実開昭54-155641号公報、周知例1)には、ケース1の上端部分から下方に指向して若干直径を狭く形成してケースガード2の下方側との間で間隙を画成したケースガード付きフィルターのドレン排出装置が記載されていると認められるが、ケース1の上端がどのように他の部材と係合しているか開示されていないことは当事者間に争いがない。

甲第4号証によれば、周知例1のケース1の底部はケースガード2底部に対して弁棒3、ばね受4、ばね部材5を介して間隙を持って組付けられていると認められる。したがって、周知例1において、ケース1の上端がケースガードと固定して一体化されているか否かを問わず、ケースのその上端部分から下方に指向して若干直径を狭く形成することによりケースとケースガード2の下方側との間で画成された間隙及びケース1の底部とばね受4との間に形成された間隙の広さだけ、内圧の上昇時、ケース1の径方向の膨張あるいは下方方向の長さの増加を許容できる構成であると解される。

これに対して、本願考案の、「ケースはその上端部分から下方に指向して若干直径を狭く形成して前記ケースガードの下方側との間で間隙を画成する」構成は、間隙を画成する点については、周知例1に開示された間隙と格別の差異はないと認められる。しかるところ、本願考案は、前記(1)で判示したとおり、ケースと一体化したケースガードをボデイに嵌合して固定する構成であるが、仮に、ケース50の上端が固定されていないとしても、ケースの下端部はケースガードに動かぬように固定されているから、上記間隙の広さだけケースの径方向への膨張を許容しても下方方向への降下は認め難い。

したがって、相違点2による本願考案の奏する作用効果は周知例1に開示されているケース1とケースガード2の下方側との間で間隙を画成するという周知技術の奏する作用効果の範囲を出ないと認められる。

なお、原告は、相違点4における本願考案の構成による作用効果を縷々主張するが、前記(1)で判示したとおり、相違点4における本願考案の構成は認められないのであるから、原告のこの点についての主張は失当である。

〈2〉  本願考案と第1引用例記載の考案の相違点3における本願考案の点について

本願考案の「係止部材を介してケースとケースガードとを一体化」する構成における係止部材の作用は、別部材であるケースとケースガードとを一体化して脱落時の危険を防止することにあると認められる。

ところで、甲第5号証の第3図(周知例2)には、ボールの外周面上をゴム又は樹脂材製保護層により覆った透明ボール及び同ボール底部に設けたドレンコックが記載されていると認められるが、甲第11号証(甲第5号証の明細書及び図面のマイクロフイルム)によれば、上記保護層は、フイルムを熱収縮させボールに装着あるいはゴムもしくは樹脂ラテックスの液にボールをつけその表面に膜を形成する方法により形成される(5頁17行ないし6頁8行)と認められ、ドレンコックにより一体化する技術が開示されているとは認められない。しかしながら、乙第11号証(日本工業規格 空気圧用フィルタ 昭和52年10月1日改正 日本規格協会発行)によれば、分離自在なケースとケースガードを係止部材(ドレン弁)を介して一体化したものが空気圧用フィルタにおいて、本願考案の出願前、周知であると認められる。

原告は、乙第11号証について、本体1にケース2及びケースガード11がクランプリング8により一体に固定されて分離不能に構成されているものであるから、本願考案のように、ケースとケースガードとがボデイに分離自在に嵌合されているものを一体化するために係止部材を設けたものとは異なると主張するが、同号証の付図から明らかなように、クランプリング8は、ケース2とケースガード11の固定をしているとは認められず、原告の上記主張は採用できない。

しかして、本願考案の相違点3による作用効果は、上記周知技術による作用効果の範囲を出ないと認められる。

以上によれば、審決の「相違点2及び3における本願考案のそれぞれの点も、前記周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に推考し得たものと認める。」との判断に誤りはない。

(4)  したがって、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決に取り消すべき違法はない。

4  以上のとおり、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

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別紙図面2

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別紙図面3

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別紙図面4

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別紙図面5

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